日本政策金融公庫

美容室の創業計画書(事業計画書)の書き方やポイントを解説!

この記事の監修
       

代表税理士
北村 嘉章

所属 四国税理士会丸亀支部 税理士登録番号137832
北村嘉章税理士事務所 代表税理士
合同会社 N village consulting 代表社員
穴吹カレッジ「香川県留学生支援会」 監事
家族 妻と長女と長男の4人家族
職歴 日亜化学工業株式会社(青色発光ダイオード)特許部
大手税理士法人である税理士法人ゆびすいで税理士登録
税理士業界での経験年数は10年

最近では美容室が急増し、町のいたるところで見かけるようになりました。

美容室は飲食店に比べればさほど大きな設備が必要なく、また、立地も飲食店ほどシビアでなくともよいため、若い方に人気となっています。

とはいえ、完全な居抜きで開業する場合はともかくも、新設や大掛かりな改修をする場合には相当額の費用がかかるだけでなく、立地の良いところを選べば家賃や保証金も高額となるため、多額の資金が必要となります。

また、美容室はかなり競争の激しい分野のため、一歩間違えれば、たちまち廃業に追い込まれてしまいます。

この記事では、美容室の開業に係る費用と必要額を獲得するための事業計画書の作り方について解説いてします。

 

美容室業界の状況

近時における美容室をとりまく状況は以下の通りとなっています。

美容室全体の状況

2023.06に矢野研究所が発表したデータによれば、2022年度の理美容サロン市場は、事業者売上高ベースで2兆704億円(前年度比101.2%)の微増となっており、新型コロナウイルス感染拡大による行動制限が緩和されたことで、人々の消費マインドが大きく回復したことが原因と考えられています。

 

厚生労働省の「衛生行政報告」によれば2021年時点における「理容所」は 114,403 施設で、前年度に比べ 1,053 施設(0.9%)減少しているのに対し、「美容所」は264,223 施設で、6,333 施設(2.5%)増加しています。

 

ホットペーパービューティがまとめた「15~69歳男女の美容サロン利用実態」(2022.02に調査実施)によれば、女性の1回あたり利用金額は、全体で7,345円、前年比415円増(6.0%増)、男性の1回あたり利用金額は、全体で4,553円、前年比189円増(4.3%増)となっています。

開業時の借入れ状況の推移

日本政策金融公庫総合研究所の「2022年度新規開業実態調査」によれば、全業者を対象とした開業資金関連のデータの推移は以下の通りとなっています。

2019 2022
自己資金平均額 262万円 271万円
資金調達額 1,237万円 1,274万円
借入額 847万円 882万円

参考:「2022年度新規開業実態調査

これによれば自己資金額、資金調達額、借入額のいずれについても、3年間の間でそれぞれ微増となっていることがわかります。

美容室の開業費用

j-net21のデータによれば、美容室の開業には1人10坪で700万〜1000万円、3人30坪で1500万〜2,000万円の他、シャンプー台やその設置のための床の底上げにも多額の費用がかかるとされています。

 

<店舗面積約10坪の美容室(個人店)のケース>

内外装費 476万円
機器・什器・備品の費用 197万円
運転資金 150万円
テナント家賃関連 104万円
営業保証金・FC加盟金 13万円
合 計 940万円

引用:J -Net21業種別開業ガイド「美容室」

また、その他のデータとしては、以下の通りとなっています。

従業者一人当たりの売上高平均 799万円
従業者一人当たりの粗付価値額平均 194万円
従業者一人当たりの有形固定資産額 42万円
従業者一人当たりの人件費 343万円
従業者一人当たりの売上高 652万円

 

美容室の開業に必要な準備

美容室の開業には多額の資金が必要となるため、十分な資金を獲得するためには、事業計画をしっかり作ることが重要となります。

 

【販売計画】 

事業を成功させるには売り上げの元となる販売を成功させる必要がありますが、販売計画は次のポイントに注意して作ります。

  1. 「だれが」   従業員を必要とするのか、家族のみでよいのか検討します。
  2. 「だれに」   どのような顧客層をターゲットにするのか明確にします。
  3. 「何を」    顧客層や立地条件などを考慮し、どのようなサービスをするのかを決定します。
  4. 「どのように」 どのようにサービスを提供するのか検討します。
  5. 「どこで」   顧客層にマッチした立地を選びます。
  6. 「販売条件」  現金なのか、カード決済を可能にするのかなどを検討します。
  7. 「営業時間」  営業時間をどうするのかを検討します。

 

【仕入計画】

美容室では仕入れの量はあまり大きくありませんが、シャンプーや薬剤などの在庫を切らしてしまうと営業ができなくなってしまうため、過不足なく継続して仕入れる必要があります。

  1. 「何を」 提供するサービスに合った材料の確保が可能かどうかを検討します。
  2. 「どこから」 必要な時期に必要な材料を安定供給してくれる仕入先の確保が重要です。
  3. 「どんな条件で」 現金なのかクレジットなのか、割引はするのかなどを確認します。
  4. 「計画的に」 過剰在庫は無駄の元となり、資金繰りに悪影響を及ぼします。

 

【資金計画】

資金計画は、以下の表を埋める形で計画します。

必要な資金 金額 調達の方法 金額
設備資金 店舗、機械、備品、車両など 万円 自己資金

親兄弟からの借入れ

公庫からの借入れ

他金融機関からの借入れ

万円
運転資金 材料や商品の仕入、経費支払資金など 万円 万円
合計 万円 合計 万円

 

【売上予測】

売上の予測はその業種によって異なりますが、美容室の場合は以下の算定方法を用いて計算します。

「客単価 × 椅子数 × 回転数」

美容椅子2台、1日1台当たり回転数 4.5 回転、客単価 3,950 円、月 25 日稼働

売上予測(1ヵ月)= 3,950 円×2台× 4.5 回転× 25 日= 88 万円

 

【返済計画】

返済計画は、返済に必要な財源を算出して計算します。

(返済財源) 返済財源=減価償却費+当期純利益

〈収支見込〉 収支見込=返済財源-借入金返済元金-家計費(個人企業の場合)

 

例 借入額600万円、返済期間5年(60回)、減価償却費24万円、当期利益144万円/年の場合

(返済額)600万円/60回 = 10万円/月

(返済財源)(24万円+144万円)/12月 = 14万円/月

よって、(返済額)10万円/月 <(返済財源) 14万円/月のため返済可能。

 

【許認可】

美容室を開業するには、美容師免許の他に管理美容師免許が必要となります。

管理美容師免許の取得には以下の要件を満たす必要があります。

  • 美容師免許取得後に3年以上の実務経験があること。
  • 各都道府県で開かれている講習会を修了していること。

 

また、実際に美容室の営業をするには、保健所に「美容室開業届」を提出し、営業の許可を取得する必要があります。

営業許可の取得の際には保健所による実地検査が行われるため、不備や指摘事項がないよう準備しましょう。

 

美容室の創業計画書作成のポイント

日本政策金融公庫の新創業融資制度をはじめ、創業融資を利用する場合には「創業計画書」の作成・提出が必須となります。

創業計画書には多くの記載事項がありますが、その中でもとくに重要な項目について解説いたします。

 

創業の動機・経営者の略歴

創業の動機の箇所では、「創業者がどのような経緯で美容室の経営をすることになったのか?」や「どんな思いをもって開業したのか?」などを記載します。

ここで注意が必要なのが、自分の思いを必要以上に大きく語ることです。

強い思いがあるのはよいことですが、この時点ではまだ何の実績もないので、計画は実現可能性が高いものに限定して記入するようにしましょう。

 

なお、どんな開業準備をしているかについても記載できると、評価がよくなります。

  • 必要な仕入れの一部ができている。
  • 集客の具体的なアイデアやチラシができている。
  • オリジナルのアイデアを作るため、〇店の美容室をリサーチした

経営者の略歴

この箇所では、創業者がどのような経歴や仕事をしてきたかを記載します。

ポイントとしては、以下の2点となります。

  • これまで行ってきた経験の内容を具体的に記載する
  • 美容室の開業に役立つ経験やスキルを記入する

 

経歴の記入例

✕ 平成20年4月に〇〇美容室に入社し、6年間カット・シャンプーその他業務全般を担

当した。

〇 平成20年4月に〇〇美容室に入社。1年間シャンプー業務、集客業務、レジ打ちを行った。

その後の2年間においてカット業務を主に担当。また、その中で、パーマやヘアマニュキュア・カラーなどの実務を習得した。

令和3年に服チーフに昇格。同年3月に地区コンテストで準優勝を取得。

 

なお、日本政策金融公庫では6年以上の業務経験があるのが望ましいと考えています。

しかし、この期間未満であってもしっかりと経営ができる実力があることを示せる場合は、審査に影響はありません。

けれど、経験年数が1~2年などと極端に短い場合には、実力不足と判断される可能性が高くなります。

取扱商品・サービス

この箇所では、取扱商品やサービスの内容、セールスポイント、販売ターゲット、販売戦略、競合・市場などについて記載します。

 

取扱商品・サービスについては、美容室の場合は、シャンプーやトリートメントその他の薬剤が主な品目となりますが、それ以外にも販売物がある場合はそれらの名称、金額、数量などを記載します。

 

サービスについては、具体的なサービス名と価格を記載しますが、この部分についてはメニューを添付すると効果的となります。

セールスポイントは、他と同じにならないように工夫し、できるだけオリジナルのものを作るようにします。

また、カットなどの他と差別化しにくいものについては、「〇〇の点で他店と違う」というような差別化ができるようにしてください。

「薄毛に悩む女性を対象とした、地肌が見えにくいカット&ブロー」など

 

販売ターゲット・販売戦略は「●●地区に在住する30~50歳の主婦とOLで、他の美容室で物足りなさを感じている方」などのようにターゲットが明確にイメージできるように絞り込みます。

 

競合・市場については、自分の営業エリア内の競合店を地図に落とし込んだ資料を作成すると効果的です。

また、競合店の存在は、インターネットで調べるだけでなく、必ずエリアを歩いてみて、見落としがないかを確認します。

事業の見通し(月平均)

今後の収支の見通しを示す資料として、創業当初から1年後までの収支計画書を作ります。

なお、日本政策金融公庫の創業計画書のフォーマットでは、「創業当初」と「1年後または事業が軌道に乗った頃」の2つの時期について記入することとなっていますが、できるだけ1年間の毎月分の収支計画を作るようにします。

この方が毎月の収支の経緯が明確となるため、審査における評価も高くなります。

 

収支計画書の主な項目は、売上高、売上原価(仕入高)、経費(人件費、家賃、支払利息など)、営業利益です。

これらの項目のうちとくに売り上げについては、「なぜ、その売上げを上げられるのか?」、「そのためにどうやって集客するのか?」といった点について、具体的な根拠を示す必要があります。

なお、実現性の低い計画で黒字にするよりも、当初の3~4ヶ月については赤字となる計画でも、その後黒字となる計画の方が信ぴょう性が高いといえます。

美容室開業で利用できる融資

美容室の開業に利用できる融資には、日本政策金融公庫以外にも制度融資などがあります。

金利などの条件が優遇されていることが多いので、積極的に利用しましょう。

 

【新創業融資制度-日本政策金融公庫】

概要 創業前または創業後一定期間までの方が使える融資
利用条件 次のすべての要件に該当する方

・新たに事業を始める方または事業開始後税務申告を2期終えていない方

・新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を1期終えていない方については、創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金が確認できること(自己資金の要件)

資金使途 新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする設備資金および運転資金
限度額 3,000万円(うち運転資金1,500万円)
返済期間 各融資制度に定めるご返済期間以内
利率 基準金利
担保保証 無担保無保証人。なお、法人については代表者個人の連帯保証が不要。

 

【生活衛生新企業育成資金-日本政策金融公庫】

概要 美容室などの生活衛生関係事業で創業する方が使える融資
利用条件 生活衛生関係の事業を新たに始める方または事業開始後おおむね7年以内の方が利用可
資金使途 設備資金および運転資金
限度額 設備資金 1億5,000万円~7億2,000万円

運転資金 5,700万円 ※ただし、振興計画認定組合の組合員の方

返済期間 設備資金 20年以内<うち据置期間2年以内>

運転資金 7年以内<うち据置期間2年以内>

利率 基準金利 ※ただし、各条件ごとに特別金利あり
担保保証 原則、必要

 

【生活衛生挑戦支援資本強化特別貸付(生活衛生資本性ローン)-日本政策金融公庫】

概要 生活衛生関係の事業でスタートアップや新事業展開に挑む方向けの融資
利用条件 生活衛生関係の事業を営む方であって、次のいずれにも該当する方

①生活衛生新企業育成資金、生活衛生事業承継・集約・活性化支援資金、生活衛生企業再建資金いずれかの融資制度の対象となる方

②地域経済の活性化にかかる事業を行うこと、および税務申告を1期以上行っている場合に、原則として所得税等を完納していること。

資金使途 設備資金および運転資金 ※ただし、振興計画認定組合の組合員の方限定
限度額 7,200万円(別枠)
返済期間 5年1ヵ月以上20年以内 返済方法は、期限一括返済(利息は毎月払)
利率 融資後1年ごとに、直近の業績に応じて、返済期間ごとに0.5~4.65%の間で決定される
担保保証 無担保・無保証人

 

【創業-東京都制度融資】

概要 新たに事業を営む方向けの融資
利用条件 次のいずれかに該当する方

①事業を営んでいない個人で、東京都内で創業しようとする具体的計画を有する方

②創業した日から5年未満である 中小企業者又は組合

③東京都内で分社化しようとする会社又は分社化により設立された日から5年未満の会社

資金使途 設備資金および運転資金
限度額 3,500万円
返済期間 設備資金 10年以内<うち据置期間1年以内>

運転資金 7年以内<うち据置期間1年以内>

利率 固定1.7%以内〜2.2%以内又は変動
担保保証 担保-必要となることがある 保証人-原則、不要
保証料 必要。但し、2/3を都が補助

 

 

まとめ

美容室開業の場合、多くのケースでは融資による資金調達が必要となりますが、審査では事業計画書の内容が結果に大きな影響をおよぼします。

金融機関に評価される事業計画書を作るには、熱意も必要ですが、その計画が現実的かつ実現可能であると納得させる内容となっていなければなりません。

そのためには、専門家などの他人にプランを見てもらうなども必要となります。

とくに、計画の根拠については、自分の考えだけではなく、公的な資料やエビデンスにもとづいた説得力の強いものとなっている必要があります。

 

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