代表税理士
北村 嘉章
所属 |
四国税理士会丸亀支部 税理士登録番号137832 北村嘉章税理士事務所 代表税理士 合同会社 N village consulting 代表社員 穴吹カレッジ「香川県留学生支援会」 監事 |
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家族 | 妻と長女と長男の4人家族 |
職歴 |
日亜化学工業株式会社(青色発光ダイオード)特許部 大手税理士法人である税理士法人ゆびすいで税理士登録 税理士業界での経験年数は10年 |
企業が成長していく上では、適切な設備の導入や更新が欠かせません。
しかし、設備導入の資金は運転資金と異なり金額が大きくなりやすく、返済期間も長めとなります。
また、金融機関では、運転資金融資とは別の視点で審査をしていることから、この金融機関の考えを知ることも重要となります。
この記事では設備資金の特徴や借り方のポイント、設備資金獲得に向いた融資や資金調達の方法について解説いたします。
同じ事業資金でも設備資金と運転資金とではその内容や借り方に大きな違いがあるため、これらを混同しないようにすることが重要です。
ここでは設備資金と運転資金の特徴や考え方について解説いたします。
「設備資金」とは、「不動産や車両、什器など事業に必要となる設備を購入するための資金」のこといいます。
設備資金の需要は、設備を購入するときだけでなく、更新をするときにも生じます。
通常、運転資金が比較的短期間での融資となるのに対して、設備資金はその資金の回収までに時間がかかるという特徴から長期の融資で行われます。
運転資金とは、事業を継続するうえで必要となる仕入れ代金や家賃、人件費、光熱費などに充てるために必要となる資金のことをいいます。
原則としては、減価償却が不要な資金であり、短いものでは1~2か月、長くても1年以内の返済期間となります。
運転資金はその用途に応じて、経常運転資金、増加運転資金、減少運転資金、季節運転資金、賞与運転資金、決算運転資金などに分類されます。
設備資金には次のような特徴があります。
前述したように設備資金は金額が大きいことや、増産分の利益でゆっくりと返済することが前提となるため、返済期間も短いもので5~7年間、長いもので10〜20年間と長期となります。
設備資金の対象となるものは、原則、減価償却の対象となる設備です。
本来、物品はすべてその種類に応じて耐用年数が決まっていますが、通常は10万円未満の即時償却ができるものは運転資金として処理されます。
※即時償却
「即時償却」とは、法が認める特例として設備投資費用を本来の耐用年数に係わらず、事業初年度に全額経費として計上できる制度。
融資をする場合必ず確認されるのが、「返済原資とその妥当性」です。
運転資金の場合の返済原資が売掛金の回収により生じる代金(利益)であるのに対して、設備資金の場合には、設備を導入したことにより生じる増産分の利益となります。
通常、運転資金の融資をした場合はそれを具体的に何に使ったのかなどの確認は行われません。
また、申し込みの時点でも用途の品目(仕入れ代金の支払いやその他の経常経費など)について詳細に確認することもありません。
しかし、設備資金については、申込時にその設備の見積書を求められるだけでなく、融資後においても支払先へ資金がすぐに振り込まれたり、本当に設備購入のために使われたか などの確認がされることも少なくありません。
これらは 設備資金の名目で融資を受けた資金を設備の購入に当てず、運転資金に使ってしまうことを警戒しているからですが、もし、設備資金の名目で借りた資金を運転資金に流用しているような場合には「資金使途違反」となり、銀行との今後の融資取引が困難となったり、資金の一括返済を求められたりすることがあります。
設備資金について融資申込みをする際には、以下の点に注意する必要があります。
設備資金融資の事業計画では、その設備からどれだけの売上や利益を生み出すことができるのかということを証明するために、カタログなどでそのスペックを証明する必要があります。
しかし、いくら増産が可能だからといって、作った商品や製品が売れなくては意味がありません。
そのため、設備投資の計画では、「その商品等がどれだけ売れるのか?(売れる見込みがあるのか?)」という点について販売計画も明らかにする必要があります。
この設備のスペックと販売見込みはセットとなるため、どちらについても整合性が取れた、実現可能性の高い計画を作る必要があります。
詳しくは後述しますが、設備資金の返済原資は「増産後の税引き後利益+減価償却費」となります。
仮に設備融資額の返済額が100万円/年だとした場合、増産後の税引き後利益が70万円/、減価償却費が30万円/年ならば、返済は問題なくできることとなります。
しかし、減価償却費の年数(法定耐用年数)が7年、返済期間が10年となっているような場合には、8年目からは税引後利益の70万円だけで返済しなければならなくなるため、返済原資が30万円不足することとなります。
返済期間 | 1年 | 2年 | 3年 | 4〜7年 | 8年 |
経過耐用年数 | 1年 | 2年 | 3年 | 4〜7年 | ― |
融資返済額 | 1,000,000円 | 1,000,000円 | 1,000,000円 | 1,000,000円 | 1,000,000円 |
減価償却費 | 300,000円 | 300,000円 | 300,000円 | 300,000円 | 300,000円 |
税引き後利益 | 700,000円 | 700,000円 | 700,000円 | 700,000円 | 700,000円 |
不足分 | 0円 | 0円 | 0円 | 0円 | △300,000円 |
実際にはその設備が法定耐用期間を超えて現役で使用できている場合でも、減価償却ができる期間は7年となっているため、会計上では減価償却費を計上することができなくなります。
このように、設備資金の融資では、返済期間は償却期間内に収めるということが原則となります。
設備資金の融資が下りた場合、それだけで安心するのは早計です。
なぜなら、設備資金の返済は長期に及ぶため、その間についてはずっと資金繰りを圧迫するからです。
そのため、運転資金であれば2~3年分程度の事業計画を作れば十分ですが、設備資金の借入れでは5~10年間という長期にわたって資金繰りを予測する必要があります。
ここでは設備資金の返済原資とその返済方法について、具体的に解説します。
設備資金の返済原資は、以下の計算式で計算することができます。
返済原資の計算式
「増産後の見込み税引後利益+減価償却費」(年間額)
※減価償却費の計算に必要な耐用年数は、国税庁の償却資産耐用年数表で確認できます。
【 例 】 現状の税引後利益 300万円/年設備の導入後の増産が予測される税引後利益 500万円/年 従前の減価償却費 100万円/年設備の導入後の減価償却費 200万円/年 |
仮に上記のような企業があった場合、この企業における現状の返済力は400万円(300万円+100万円)となります。
しかし、設備の導入により生産力が上がる場合には、これにより利益の増加が見込まれるため、これを反映した金額で計算します。
また、設備の導入により、減価償却額も増えることから、この額も計算に反映させる必要があります。
もし、設備導入後の税引後利益が500万円/年、減価償却費が200万円/年の場合、見込み返済原資は700万円(500万円+200万円)となります。
そのため、仮に10年で償却する設備を購入するのであれば
( 税引後利益+減価償却費 ) × 返済期間の年数 = 融資可能額
500万円+200万円 10年 7,000万円
の融資が見込めることとなります。
すでに借入れがある場合には、その金額を差し引くことで、実質的な融資可能額を計算できます。
( 税引後利益+減価償却費 ) × 返済期間の年数 - 既存の借入額
もし、上記の例で会社の残債額が700万円の場合は、7,000万円 – 700万円 = 6,300万円が見込みの融資可能額となります。
なお、創業融資の場合には、一般的な企業のような実績の利益で計算することができないため、「税引後利益と減価償却費」は事業計画書の予想額を使って計算することとなりますが、その際には根拠のない利益額とならないよう注意する必要があります。
設備融資の申込みをする際には、以下のポイントに気をつけて申込み・計画の作成をすると、よりスムーズに利用できるようになります。
融資の申込み額は「いくら欲しいから」ということではなく、「いくら借りれるのか?」、「本当に返せるのか?」を考えて決めるべきです。
また、借入れの際には、その資金使途を明確に伝えることも重要となります。
単に「資金繰りが厳しいから、運転資金として3ヶ月分を借りたい」、「売上を伸ばしたいので新しい設備を導入したい」などの貧弱な理由ではまともに融資を受けることはできません。十分な額の融資を獲得するには
を明確にして金融機関の理解を得る必要があります。
そのためには、「現在の設備が老朽化して競争力がなくなっているので、新型の設備を導入することで売上げを回復したい。これにより〇%の売上と利益の増加が見込まれるので、増産後の利益分で返済します」
などといった、明確なストーリーと根拠を打ち出す必要があります。
この資金使途や返済根拠を示す具体的な資料としては、事業計画書や資金繰り表、見積書、設備のカタログ、販売に関する契約書などを提出します。
このように明確な理由と根拠にもとづいた申込みをすることで、金融機関の理解が得やすくなるため借入れの可能性を高めることができます。
信用保証協会付融資を利用したいが保証枠が足りないという場合には、「セーフティネット保証」を利用することで、保証枠を2倍に増やすことができます。
セーフティネット保証とは、災害、取引金融機関の破綻、大規模な経済危機等により経営の安定に支障を生じている中小企業者について、保証限度額の別枠化等を行う制度です。
現在、セーフティネット保証は1号〜8号及び危機関連保証がありますが、危機関連保証については対象となる案件が認定されていないため利用ができなくなっています。
セーフティネット保証の種類
1号 | 連鎖倒産防止 (令和5年11月8日更新) |
2号 | 取引先企業のリストラ等の事業活動の制限 (令和5年11月15日更新) |
3号 | 突発的災害(事故等) |
4号 | 突発的災害(自然災害等) (令和5年12月1日更新) |
5号 | 業況の悪化している業種(全国的) (令和5年6月16日更新) |
6号 | 取引金融機関の破綻 |
7号 | 金融機関の経営の相当程度の合理化に伴う金融取引の調整 (令和5年6月23日更新) |
8号 | 金融機関の整理回収機構に対する貸付債権の譲渡 |
危機 | 危機関連保証(中小企業信用保険法第2条第6項) ※休止中 |
この中では「セーフティネット保証4号」と「セーフティネット保証4号」が使いやすいものなっています。
新創業融資制度
利用条件 | 新たに事業を始める方または事業開始後税務申告を2期終えていない方。ただし、新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を1期終えていない方は、創業資金総額の10分の1以上の自己資金が必要。 |
融資限度額 | 3,000万円(うち運転資金1,500万円) |
返済期間 | 各融資制度に定める返済期間以内 |
利 率 | 2.4~3.6% ※2023.12現在 |
担保・保証 | 原則、不要。なお、法人が申し込んだ場合は、代表者の連帯保証も不要とすることができます。 |
担保を不要とする融資の概要
利用条件 | 税務申告を2期以上行っており、原則、所得税等を完納している方 |
融資限度額 | 4,800万円 |
返済期間 | 各融資制度に定める返済期間以内 |
利 率 | 2.1~3.3% ※2023.12現在 |
担保・保証 | 担 保:無担保 保証人:法人営業の方・・・代表者の方のみ 個人営業の方・・・不要 ただし、次の方については保証を求められることがあります。 ・実質的な経営者 ・事業承継の予定者 |
マル経融資の概要
利用条件 | 商工会議所や商工会などの経営指導を受けている小規模事業者。
なお、利用にあたっては商工会議所等の推薦が必要となります。 |
融資限度額 | 2,000万円 |
返済期間 | 運転資金 7年以内(据置期間1年以内)
設備資金 10年以内(据置期間2年以内) |
利 率 | 1.2% ※2023.12現在 |
担保・保証 | 不要 |
新型コロナウイルス感染症特別貸付の概要
利用条件 | 新型コロナウイルス感染症の影響を受け、一時的な業況悪化を来している方であって、最近1ヵ月間の売上高または過去6ヵ月(最近1ヵ月を含む)の平均売上高が前5年のいずれかの年の同期と比較して5%以上減少している方 |
融資限度額 | 8,000万円(別枠) |
返済期間 | 運転資金 20年以内(据置期間5年以内)
設備資金 20年以内(据置期間5年以内) |
利 率 | 基準金利
ただし、6,000万円を限度として融資後3年目までは基準利率-0.5%(注2)、4年目以降は基準利率 |
担保・保証 | 担 保:無担保 保証人:要相談 |
※本制度は令和6年3月31日まで延期されました。
※令和5年10月1日(日)の申込受付分から、融資後3年目までの金利引下げ幅が縮小(基準利率-0.9%→基準利率-0.5%)となりました。
これらの融資は第三者の保証人は不要ですが、原則として、法人については代表者の連帯保証が必要となります。しかし、新創業融資制度については、代表者の保証も不要とすることができます。
なお、設備資金の借入れについては、以下のような優遇制度が用意されています。
<日本政策金融公庫の設備資金優遇制度>
利用条件 | 次の融資制度で設備資金をご利用される方であって、5年間で2%以上の付加価値額の伸び率が見込まれる設備投資を行う方(注)
(1)一般貸付 (2)特別貸付(挑戦支援資本強化特例制度(資本性ローン)、海外展開・事業再編資金、企業再生貸付の一部および新規開業資金の一部を除く。) (3)マル経融資(小規模事業者経営改善資金) (4)生活衛生貸付(生活衛生改善貸付を含む。) |
融資限度額 | 各融資制度に定める融資限度額 |
利 率 | 各融資制度に定める利率-0.5%(ご融資日から2年間)
(※)利率の下限は0.3% |
返済期間 | 各融資制度に定めるご返済期間以内 |
通常の金融機関では、企業の返済実績に応じて融資限度額を決定しています。
そのため、企業の財務内容がよい場合でも、延滞や支払いの遅れがある場合には、それ以上の融資を受けるのが難しくなります。
しかし、これとは逆に、支払いの遅れ等がない、誠実に経営改善に努めているなどの企業に対しては、本来の実力にプラスして融資をすることがあります。
とくに日本政策金融公庫では、赤字の会社であっても経営方針がしっかりしており、融資の目的や返済財源が明確になっているような会社については、予想を超えた融資をすることがあります。
このように返済実績や経営計画の内容は、金融機関にとってその企業の信用力を判断する重要な材料となるとともに、その後の与信にも影響する要因となります。
したがって、支払日前には十分な額の金額がストックされているか、金融機関に提出する事業計画に穴や矛盾がないかを確認し、支払い遅れや金融機関の不信を招くことがないように準備しましょう。
「制度融資」とは、都道府県や市町村などの自治体と金融機関、および信用保証協会の3者が協調して行っている融資制度です。
それぞれの役割としては、自治体が制度の設計と運用をし、金融機関は融資を行い、信用保証協会は公的な保証人となります。
制度融資は、創業者や中小企業であっても比較的簡単に利用でき、自治体によっては金利や保証料の減免、融資額の上乗せなどの優遇を受けられる場合もあります。
また、日本政策金融公庫と制度融資の審査はリンクしていないため、一方の融資がダメだった場合でも、その影響を受けることなく利用することができます。
ただし、制度融資は、運営する自治体ごとに中身や条件が異なるため、自分が利用できる制度融資の種類や特徴、条件などを確認しておく必要があります。
設備投資は企業にとって避けては通れない活動の一つですが、運転資金と比べて必要資金が大きくなりやすく、その分融資を利用する必要が大きくなります。
設備投資の融資では、その返済財源が設備導入による増産力となるため、その裏付として設備の性能を示す見積書やカタログが必要となるだけでなく、「増産分を売り切れるのか?」という販売の裏付けも重要なります。
また、本当に設備購入に必要な資金を借りられるのかという点においては、「現在の実力であと、いくら借りられるか?」を知ることも企業が正確な融資額を算定したり、その後の資金繰りをする上で大切といえます。
したがて、設備資金の融資を受ける場合には、これらのことを踏まえて綿密な計画を立てるとともに、設備の導入で有利に利用できる制度なども確認しておきましょう。
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「開業まで短期間で融資を通らないと間に合わない」
「金融機関とのやりとりってどうすればいい?」
「書類がいっぱいあって正確に書けるかな。
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