日本政策金融公庫

経営者保証改革プログラムとは?創業融資が受けやすくなるのか?

この記事の監修
       

代表税理士
北村 嘉章

所属 四国税理士会丸亀支部 税理士登録番号137832
北村嘉章税理士事務所 代表税理士
合同会社 N village consulting 代表社員
穴吹カレッジ「香川県留学生支援会」 監事
家族 妻と長女と長男の4人家族
職歴 日亜化学工業株式会社(青色発光ダイオード)特許部
大手税理士法人である税理士法人ゆびすいで税理士登録
税理士業界での経験年数は10年

通常、銀行で融資を利用するときには、経営者の連帯保証が求められます。これには保証があることで、融資が利用しやすくなるなどの利点がある一方、経営者を委縮させ、思い切った事業展開を躊躇させるという点が問題となっていました。

このような課題の解消に向けて制定されたのが、「経営者保証改革プログラム」です。

このプログラムにより、これまで以上に経営者保証のない融資を受けやすくなっています。

この記事では「経営者保証改革プログラム」の内容や要件・利用した場合の効果等について解説いたします。

 

「経営者保証改革プログラム」の成立の背景と概要

ここでは「経営者保証改革プログラム」の概要と、なぜこのプログラムが作られたのかという背景について解説いたします。

「経営者保証改革プログラム」の成立の背景

これまで法人が銀行等からの借入れをする際には、経営者(法人代表者)による連帯保証が必要とされてきました。

経営者保証は、「企業の信用を個人で補完することで借入れを容易にすることができる」、「経営者にも責任を分担することで安易な借り入れを防止する」という機能がありましたが、その一方で、「経営者に大きな金額の借入れを躊躇させる」、「事業承継や事業再生の際に早期の解決を阻害する要因となる」という問題点もありました。

 

これらの点に対する対策としては中小企業庁が中心となって「経営者保証に関するガイドライン」を平成26年2月1日より適用していますが、法的な拘束力がないため、金融機関による取り扱いに差が大きい、要件も厳しいものが多く使いづらい部分があるなどから、十分に活用されているとはいえない状況でした。

「経営者保証改革プログラム」の概要

政府は、このような課題の解消と経営者保証に依存しない融資慣行の確立を更に加速させるため、これまでの経営者保証ガイドラインとは別に、経済産業省・金融庁・財務省による連携の下、経営者保証改革プログラムを作成したものです。

 

本プログラムは、主に以下の4分野について策定されています。

  1. スタートアップ・創業、
  2. 民間融資
  3. 信用保証付融資
  4. 中小企業のガバナンス

 

「経営者保証改革プログラム」の各対策の詳細について

「経営者保証改革プログラム」の各対策の詳細は、以下の通りとなります。

スタートアップ・創業対策

スタートアップ・創業対策は、創業時の融資において経営者保証を求める慣行が創業意欲の阻害要因となっている可能性を踏まえ、起業家が経営者保証を提供せず資金調達が可能となる道を拓くべく、経営者保証を徴求しない制度を拡充したものです。

主なポイントは以下の通りとなります。

 

スタートアップ向けの新しい信用保証制度の創設【制度開始:23年3月】

① スタートアップの創業から5年以内の者に対する経営者保証を徴求しない新しい信用保証制度が創設されました。(保証割合:100%/保証上限額:3,500万円/無担保)

 

これまでも一部では創業者向けの融資において、代表者の経営保証を免除する取組みは行われていましたが、今回の制度では内容をさらに拡充し、「スタートアップの創業から5年以内の者」を対象とする経営者保証を求めない信用保証制度となりました。(スタートアップ創出促進保証)

また、通常の融資では保証割合が80%となっているため、倒産などの万が一のときの貸し出しリスク20%分を金融機関が負担する必要があり、金融機関が創業融資に消極的となる原因の一つとなっていました。

しかし、この制度では保証割合が100%とされているため、金融機関がリスクを考える必要がなく、融資に積極的になれるという利点があります。

 

スタートアップ創出促進保証

保証対象者 ・創業予定者(これから法人を設立し、事業を開始する具体的な計画がある者)

・分社化予定者(中小企業にあたる会社で事業を継続しつつ、新たに会社を設立する具体的な計画がある者)

・創業後5年未満の法人

・分社化後5年未満の法人

・創業後5年未満の法人成り企業

保証限度額 3,500万円
保証期間 10年以内
据置期間 1年以内(一定の条件を満たす場合には3年以内)
金利 金融機関所定
保証料率 各信用保証協会所定の創業関連保証の保証料率に0.2%上乗せした保証料率
担保・保証人 不要
その他 ・創業計画書の提出が必要。

・保証申込受付時点において税務申告1期未終了の創業者にあっては創業資金総額の1/10以上の自己資金を有していること

・本制度による信用保証付融資を受けた方は、原則として会社設立後3年目および5年目のタイミングで中小企業活性化協議会による「ガバナンス体制の整備に関するチェックシート」にもとづいた確認および助言を受けること

 

日本政策金融公庫による創業者向け融資要件の緩和 【23年2月~】

日本公庫等においては、新たに創業後5年以内のスタートアップ向けに要件を緩和した経営者保証免除特例制度や、無保証で利用可能な資本性劣後ローンなどを積極的に活用することとなりました。

 

これまで日本政策金融公庫では「新創業融資制度」により0.1%の金利負担をすれば代表者の連帯保証を免除できるものとされていましたが、この新創業融資制度を利用できるのは「新たに事業を始める方または事業開始後税務申告を2期終えていない方」に限定されていました。

そのため、実質的に最大2期までしか利用できない状況となっていましたが、今回、従来の「経営者保証免除特例制度」の要件を拡充し、今後は創業後5年まで経営者保証のない融資を利用できることとなっています。

 

経営者保証免除特例制度の概要

利用出来る方 次の1から3までのいずれかの要件を満たしており、経営状況等から借入返済が可能と見込まれる法人の方

1. 次の(1)から(3)までのすべてての要件を満たす方。ただし、「物的担保の提供をする場合」は(1)の要件を、「新規開業後おおむね5年以内であって、技術・ノウハウ等に新規性がみられる方等(注1)」は、(1)および(2)の要件を満たしていれば利用できます

(1)法人と代表者の方の一体性の解消が一定程度図られていることについて、公庫において確認ができること(注2)

(2)税務申告を2期以上実施していること。また、公庫からの普通貸付または生活衛生貸付の借入がある場合は、取引状況に問題(遅延)がないこと

(3)減価償却前経常利益が直近2期連続赤字ではなく、かつ、直近の決算で債務超過ではないこと。

2. 取引金融機関において代表者保証の免除に関する協調対応が見込める方または取引金融機関から代表者保証を免除された借入の残高のある方

3. 事業承継・集約・活性化支援資金または生活衛生事業承継・集約・活性化支援資金を適用してご融資を受けられる方

利率 保証免除した融資には、適用する融資制度の利率に0.2%が上乗せ(注3)
担保・保証人 経営者の保証が免除されます。

担保の提供の有無は、申込みの際に選択できます。

その他の条件 上記以外の貸付条件は、各融資制度で定められています

(注1)次のいずれかの事業を行う方が対象

  • 知的財産権等を利用した事業
  • 特定の補助金を活用した事業(ものづくり補助金等)
  • VC・ファンドから出資を受けた事業
  • エンジェル税制対象企業が行う事業
  • J-StartupプログラムまたはJ-Startup地域版プログラムに選定された企業が行う事業

事業再構築補助金を活用した事業

  • 新たな技術・サービス等を活用した事業で一定の成長性が認められるもの

(注2)事業上の必要が認められない法人から経営者への貸付金等がないことをいう

(注3)「新規開業後おおむね5年以内であって、技術・ノウハウ等に新規性がみられる方等」の上乗せ利率は0.1%となります。

 

商工中金のスタートアップ向け融資における経営者保証の原則廃止【22年10月~】

商工中金では、令和2年1月からさらに上記の対策をすすめ、新規融資を「原則無保証化」とし、年間約3万件の融資について原則、無保証とする運用を開始しています。

 

民間金融機関に対し、経営者保証を徴求しないスタートアップ向け融資を促進する旨を要請【年内】

政府は令和4年1 2月2 3日に金融機関に対して「個人保証に依存しない融資慣行の確立に向けた取組の促進について」を発出し、「経営者保証改革プログラム」の周知と理解を求めました。

 

民間融資における保証徴求手続の厳格化、意識改革

今後の民間融資について、政府は監督指針の改正を行い、保証を徴求する際の手続きを厳格化することで、「安易な個人保証に依存した融資を抑制する」、「事業者・保証人の納得感を向上させる」ことを目的としています。

また、「経営者保証ガイドラインの浸透・定着に向けた取組方針の作成、公表の要請等を通じ、経営者保証に依存しない新たな融資慣行の確立に向けた意識改革を進めることとしています。具体的には、以下のような施策を実施します。

金融機関が個人保証を徴求する手続きに対する監督強化

  1. 金融機関が経営者等と個人保証契約を締結する場合には、保証契約の必要性等に関し、事業者・保証人に対して個別具体的に一定の説明をすることを求めるとともに、その結果等を記録することを求める。
  2. ①の結果等を記録した件数を金融庁に報告することを求める。を目指す。
  3. 金融庁に経営者保証専用相談窓口を設置し、事業者等から「金融機関から経営者保証に関する適切な説明がない」などの相談を受け付ける。
  4. 状況に応じて、金融機関に対して特別ヒアリングを実施

経営者保証に依存しない新たな融資慣行の確立に向けた意識改革

  1. 金融機関に対し、「経営者保証に関するガイドラインを浸透・定着させるための取組方針」を経営トップを交え検討・作成し、公表するよう金融担当大臣より要請。
  2. 監督指針改正に伴う新しい運用や経営者保証に依存しない融資慣行の確立の重要性等を十分に理解してもらうべく、金融機関・事業者向けの説明会を全国で実施。
  3. 有効な取組みを取りまとめた「組織的事例集」の更なる拡充及び横展開を実施。

 

経営者保証に依存しない新たな融資手法の検討 (事業成長担保権(仮))

金融機関が、不動産担保や経営者保証に過度に依存せず、企業の事業性に着目した融資に取り組みやすくするよう、事業全体を担保に金融機関から資金を調達できる制度「事業成長担保権(仮)」の早期実現に向けた議論を進めていく。

 

信用保証付融資における経営者保証の提供を選択できる環境の整備(希望しない経営者保証の縮小)

政府は、経営者保証ガイドラインの要件(①法人・個人の資産分離、②財務基盤の強化、③経営の透明性確保)を充たしていれば経営者保証を解除する現在の取組を徹底するとともに、経営者保証ガイドラインの要件のすべてを充足していない場合でも、経営者保証の機能を代替する手法(保証料の上乗せ、流動資産担保)を用いることで、経営者保証の解除を事業者が選択できる制度を創設しました。

 

具体的には、以下のような施策を実施します。

信用保証制度における経営者保証の提供を事業者が選択できる環境の整備

  1. 経営者が一定の要件(法人から代表者への貸付等がないこと、決算書類等を金融機関に定期的に提出していること 等)を充足した場合は、保証料を上乗せ負担させて経営者保証の解除を選択できる信用保証制度の創設
  2. 信用保証制度のABL(売掛債権や棚卸資産などの流動資産を担保とする融資)における経営者保証の徴求を廃止
  3. プロパー融資における経営者保証の解除等を条件に、プロパー融資の一部に限り、借換を例外的に認める保証制度(プロパー借換保証)の時限的創設

 

経営者保証ガイドラインの要件を充足する場合の経営者保証解除の徹底

  1. 金融機関に対し信用保証付融資を行う場合には、経営者保証を解除することができる現行制度の活用を検討するよう要請。
  2. 保証付融資が原則として経営者保証が必要であるかのような誤解が生じない広報の展開。

 

中小企業のガバナンス体制の整備を通じた企業価値向上の実現

経営者保証解除の前提となるガバナンスに関する中小企業経営者と支援機関の目線合わせを図るとともに、支援機関向けの実務指針の策定や中小企業活性化協議会の機能強化を行い、官民による支援態勢を構築します。

 

具体的には、以下のような施策を実施します。

  1. ガバナンス体制整備に関する経営者と支援機関の目線合わせのチェックシートの作成 ② 中小企業の収益力改善やガバナンス体制整備支援等に関する実務指針の策定や支援策(経営改善計画策定支援・早期経営改善計画策定支援)における支援機関の遵守の促進
  2. 中小企業活性化協議会における収益力改善支援にガバナンス体制整備支援を追加

 

また、コロナ資金繰り支援として以下の対策を行っています。

  • 「民間ゼロゼロ融資からの借り換えに加え、事業再構築等の前向き投資に必要な新たな資金需要にも対応する借換保証制度(100%保証の融資は100%保証で借換え)」(コロナ借換保証)を創設。
  • コロナ借換保証については、来年度の民間ゼロゼロ融資の返済開始時期のピークに備え、 2023年1月10日から運用を開始。
  • 日本政策金融公庫によるスーパー低利融資については、債務負担が重い事業者(債務償還年数が13年以上)であれば、売上減少要件を満たしていなくても融資対象となるよう、要件を緩和。

 

具体的な金融機関への監督の内容

政府は令和4 年1 2月2 3日に発出した「個人保証に依存しない融資慣行の確立に向けた取組の促進について」において、金融機関への監督指針を明確にしています。

 

  1. 改正された監督指針の趣旨・内容について営業現場の第一線まで漏れなく説明し、運用開始までに確実に浸透させること。事業者等の知識、経験等に応じた説明を行うこと。
  2. 民間金融機関は、保証契約締結時において、債務者の状況に応じて、資産・収益力については定量的、その他の要素については客観的・具体的な目線を示した説明に努めること。
  3. 民間金融機関においては、今般の監督指針改正が個人保証を制限する趣旨でないことを十分に理解し、貸し渋り、貸し剥がしを行わないこと。
  4. 「経営者保証に関するガイドライン」を浸透・定着させるための取組みについて、経営陣を交えて議論し、対外公表すること。また、その取組方針を具体的かつわかりやすい記載で「見える化」すること。
  5. 「収益力改善支援に関する実務指針」や「ガバナンス体制の整備に関するチェックリスト」を十分に活用すること。
  6. スタートアップについては、ガイドラインの要件のうち財務基盤の強化の要件を機械的に当てはめず、個人保証を求めない対応ができないか検討すること。
  7. 民間金融機関においては、事業者のニーズに応じて、新たな日本公庫等の制度(スタートアップ向け経営者保証免除特例制度や、無保証で利用可能な資本性劣後ローン)を紹介するとともに、信用保証協会の新たなスタートアップ創出促進保証を積極的に利用すること。また、こうした制度を利用する事業者に対し、日本公庫等や信用保証協会と協調で資金供給を行うなどの連携を行うこと。

 

これらの監督指針は金融機関に対するものであり、直接、利用者である創業者や中小企業を拘束するものではありませんが、その内容を知っておくことで、今後、金融機関による理不尽な対応を防いだり、金融機関と交渉する際の材料として役立てることができます。

 

まとめ

「経営者保証改革プログラム」は、これまでの「経営者保証に関するガイドライン」をさらに補完・強化したものであり、とくにスタートアップに対しては一層、優遇したものとなっています。

主な改正点としては「創業融資における経営者保証を徴求しない新しい信用保証制度の創設」や「日本公庫等における創業から5年以内の者に対する経営者保証を求めない制度の要件緩和」などがありますが、その他にも「個人保証を徴求する手続きにおける監督指針の強化」や「経営者保証ガイドラインの要件のすべてを充足していない場合でも利用できる経営者保証の機能を代替する手法」などがあげられます。

 

とくに、政府が金融機関に示した監督指針の内容を知っておくことで、今後、金融機関による理不尽な対応を防いだり、金融機関と交渉する際の材料として役立てることができます。

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