日本政策金融公庫

中小企業向けの融資制度とは?種類や審査ポイントをご紹介!

この記事の監修
       

代表税理士
北村 嘉章

所属 四国税理士会丸亀支部 税理士登録番号137832
北村嘉章税理士事務所 代表税理士
合同会社 N village consulting 代表社員
穴吹カレッジ「香川県留学生支援会」 監事
家族 妻と長女と長男の4人家族
職歴 日亜化学工業株式会社(青色発光ダイオード)特許部
大手税理士法人である税理士法人ゆびすいで税理士登録
税理士業界での経験年数は10年

中小企業では大手企業に比べて融資を受けるのが難しいと思われていますが、日本政策金融公庫や制度融資(信用保証協会付融資)など中小企業しか利用できない融資もあり、これらの融資では金利や期間などが優遇されたものとなっています。

そのため、中小企業や創業者でも、これらの融資を利用すれば希望にあった資金の調達をすることが可能となりますが、そのためには正しい融資制度に関する知識や活用の仕方を知っておく必要があります。

この記事では中小企業や創業企業が利用しやすい日本政策金融公庫の融資制度や審査のポイントについて解説いたします。

 

日本政策金融公庫の融資について

以下では、中小企業や創業企業がもっとも利用しやすい日本政策金融公庫の融資制度の概要についてご説明いたします。

日本政策金融公庫とは

日本政策金融公庫は、以前の国民生活金融公庫、農林漁業金融公庫、中小企業金融公庫が統合して設立された政府系金融機関です。

沖縄県を除く46都道府県に支店が設置され、業務を行っています。(沖縄県は、沖縄振興開発金融公庫が業務を担当)

 

日本政策金融公庫では、以下の業者・規模の企業を対象に融資を行っているため、これを超える規模の企業は利用することができません。

業 種 事業規模(次のいずれかに該当する者)
資本金または出資金 常時使用する従業員の数
飲食店営業、喫茶店営業、理容業、美容業、 一般公衆浴場業、サウナ営業、その他公衆 浴場業 5,000 万円以下  100 人以下
食肉・食鳥肉小売業、氷雪販売業 5,000 万円以下 50 人以下
旅館業 5,000 万円以下 200 人以下
食肉・食鳥肉卸売業、氷雪卸売業 1億円以下 100 人以下
興行場営業 3億円以下 100 人以下
クリーニング業 3億円以下 300 人以下

 

日本政策金融公庫の融資の特徴

日本政策金融公庫の融資には以下のような特徴があります。

 

  • 低金利、無担保無保証人で利用できる。

日本政策金融公庫の融資は一般的な金融機関と比較して、特別に低利での融資を行っています。

金利は融資の種類により異なりますが、通常の事業者が担保・保証人なしで利用できる「担保を不要とする制度」では2.10~3.20%、創業者が無担保無保証で利用できる「新創業融資制度」は2.40~3.50%で利用することができます。

  • 返済期間が長期のものが多い。

日本政策金融公庫の融資には返済期間が長いものが多く、運転資金 7年以内、設備資金 10年以内が標準となっていますが、中には20年という超長期の融資制度もあります。

また、ほとんどの融資について「据置期間」が設けられていることから、この期間中については元金の支払いをせずに金利のみを支払えばよく、そのため借入れ後の資金繰りを楽にすることができます。

  • 経営状況に応じた柔軟な借り入れがしやすい

通常の金融機関では、財務状況が赤字や債務超過となっている場合には、融資を受けることが難しくなります。

しかし、日本政策金融公庫ではこのような企業であっても、今後の売上げ見込みや受注見込みなどをていねいにヒアリングして、返済の見込みがあると判断した場合には貸し出しをするという柔軟な対応が期待できます。

 

日本政策金融公庫の代表的な融資制度

日本政策金融公庫の代表的な融資制度としては、以下のようなものがあります。

創業者向け融資制度

新創業融資制度

利用条件 新たに事業を始める方、または事業開始後で税務申告を2期終えていない方

創業資金総額の10分の1以上の自己資金(事業に使用される予定の資金をいいます。)を確認できる方

融資限度額 3,000万円(うち運転資金1,500万円)
返済期間 各融資制度に定める返済期間以内
利率 2.40~3.50% ※令和5年9月時点
担保・保証 不要

 

生活衛生新企業育成資金

利用条件 生活衛生関係の事業を創業する方又は創業後おおむね7年以内の方
融資限度額 設備資金 1億5,000万円~7億2,000万円

運転資金 5,700万円 ※振興計画認定組合の組合員の方

返済期間 運転資金 7年以内(据置期間2年以内)

設備資金 20年以内(据置期間2年以内)

利率 基準金利他 ※令和5年9月時点
担保・保証 原則、必要

 

新規開業資金

利用条件 新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方
融資限度額 7,200万円(うち運転資金4,800万円)
返済期間 運転資金 7年以内(据置期間2年以内)

設備資金 20年以内(据置期間2年以内)

利率 基準金利 ※令和5年9月時点
担保・保証 原則、必要

 

資本性ローン

利用条件 新規開業資金、新事業活動促進資金他の制度を利用する方で、地域経済活性化にかかる事業を行うこと、税務申告を1期以上行っている場合、原則として所得税等を完納していることの要件を満たすこと
融資限度額 7,200万円(別枠)
返済期間 5年1ヵ月以上20年以内
利率 0.5~4.65% ※業績により異なる ※令和5年9月時点
担保・保証 不要

 

中小企業向け融資制度

マル経融資

利用条件 商工会、商工会議所又は都道府県商工会連合会の実施する経営指導を受けている小規模事業者(商工業者に限る。)であって、商工会、商工会議所等の長の推薦を受けた方
融資限度額 2,000万円
返済期間 運転資金 7年以内(1年以内)

設備資金 10年以内(2年以内)

利率 1.25% ※令和5年9月時点
担保・保証 不要

 

経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)

利用条件 社会的、経済的環境の変化等外的要因により、最近の決算期における売上高が前期または前々期に比し5%以上減少しているが、中長期的にはその業況が回復することが見込まれる方他
融資限度額 4,800万円
返済期間 運転資金 8年以内(3年以内)

設備資金 15年以内(3年以内)

利率 基準金利 ※令和5年9月時点
担保・保証 原則、必要

 

担保を不要とする融資制度

利用条件 税務申告を2期以上行っている方
融資限度額 4,800万円
返済期間 各融資制度に定めるご返済期間以内
利率 2.10~3.20% ※令和5年9月時点
担保・保証 担保:無担保

保証人:法人営業の方・・・代表者の方のみ

個人営業の方・・・不要

(注)実質的な経営権を有する方は保証を求められることあり

 

経営者保証免除特例制度

利用条件 法人と代表者の方の一体性の解消が一定程度図られていることについて、公庫において確認ができること、税務申告を2期以上実施していること、減価償却前経常利益が直近2期連続赤字ではなく、かつ、直近の決算で債務超過ではないことなどの一定の要件を満たす方
利率 保証免除した融資は、適用する融資制度の利率に0.2%が上乗せされる
担保・保証 融資にあたり、経営者の保証が免除される

担保の提供の有無は、申込みの際に選択が可能

その他 上記以外の貸付条件は、各融資制度で定めるところによる

 

 

日本政策金融公庫の融資申し込みの流れ

日本政策金融公庫では、窓口・郵送の他にインターネットでも申し込みをすることができます。

ここでは、インターネット申込みによる場合について説明します。

https://www.jfc.go.jp/n/finance/flow/tetsudukij_c.html

公庫への相談(電話または訪問)

相談は、公庫各支店の中小企業事業の窓口で行うことができます。

また、電話や、商工会議所では定例相談の場でも相談を受け付けています。

なお、相談の際には「会社案内」「決算書」「事業計画書」などの資料を持参するとより具体的な相談をすることができます。

 

相談は必ず必要なものではありませんが、あらかじめ相談をしておけば、事前に適した融資制度や手続きの流れを知ることができるので、おすすめします。

ただし、相談は予約制のため、事前に下記サイトから予約をしておく必要があります。

電話相談や予約相談

融資の申込みと必要書類の提出

融資の申込みは、営業所予定地を管轄する公庫の支店に対して郵送・持参・インターネット申込みのいずれかの方法により行います。

【公庫支店管轄一覧】
https://www.jfc.go.jp/n/branch/pdf/tenpo01.pdf

インターネットによる申込みは、以下のサイトから24時間365日、行うことができます。

【インターネット申込み】
https://www.jfc.go.jp/n/service/pdf/internet_kariire.pdf

 

インターネット申込みの場合には、以下の書類を準備し電子データで送付します。

【必要書類(創業融資)】

  • 最近2期分の申告決算書 ※個人事業
  • 最近2期分の確定申告書、決算書(勘定科目明細書を含む)、最近の試算表(決算後6ヵ月以上経過している場合または事業を始めたばかりで決算を終えていない方) ※法人
  • 設備資金の申込みの場合は見積書
  • 企業概要書
  • 履歴事項全部証明書または登記簿謄本(法人の場合)
  • 運転免許証(両面)またはパスポート(顔写真のページおよび現住所等の記載のあるページ)のコピー
  • 生活衛生関係の事業を営む方は、都道府県知事の「推せん書」(借入申込金額が500万円以下の場合は不要)または、生活衛生同業組合の「振興事業に係る資金証明書」
  • 担保の利用を希望の場合は、不動産の登記簿謄本または登記事項証明書
  • 許認可証のコピー(飲食店などの許可・届出等が必要な事業を営んでいる方)

※郵送による申込手続きによる場合は、上記資料とあわせて「借入申込書(国民生活事業用)」の提出が必要となります。

担当者との面談

融資申し込みをしてから1週間~10日後に、担当者との面談が行われます。
通常、面談は公庫の支店で行いますが、必要に応じて申込人の事務所や工場で行われることもあります。

面談では、資金の使いみちや事業の状況(計画)などについてヒアリング・確認が行われます。

面談は、借入れ申込書や事業計画書の内容にもとづいて行われるので、それらに記載した内容をしっかりと理解しておく必要があります。

 

また、売り上げの見込みや利益に関する部分では、売上げを上げられると思う根拠や、具体的な利益の見通しなどについて細かく聞かれるため、あいまいな回答ではなく、根拠に基づいた回答ができるようにしておく必要があります。

あらかじめどのようなことを聞かれるのかを想定し、これに対する答えを考えておくとよいでしょう。

審査結果の連絡

面談終了後から1週間~10日後に、公庫から融資の審査に関する連絡が行われます。

決定の連絡は、原則、手紙で行われますが、電話で融資の額の通知や融資を受けるつもりがあるかなどの確認がされることもあります。

融資の契約手続き・資金の入金

融資審査で申込みが承認された場合は、契約の必要書類(借用証書や口座振替届、個人情報取り扱い同意書など)が送付されてくるので、これに記入して返送します。

なお、融資の契約の際には、以下のものが必要となります。                          

  • 収入印紙
  • 印鑑証明
  • 送金先口座の預金通帳
  • 返済用口座の預金通帳

 

融資の契約書には借入額に応じた印紙が必要となりますが、この印紙代は全額申込人の負担となります。

送金先口座の預金通帳と返済用口座の通帳は同じものでなくとも構いません。

法人については、法人口座だけでなく代表者の個人口座を指定することも可能です。

融資の返済

融資の入金がされた後は、その翌月から返済が始まります。

ただし、申込時に元金据置きを希望し、了承されている場合には、据置期間については元金の支払いは発生せず、利息のみを支払います。

 

返済方法は、原則、元金均等返済となりますが、元利均等返済やステップ返済などを利用できる場合もあります。

※ 元金均等返済 決まった額の元金に利息を加えて返済する方法

元利均等返済 元金と利息を合わせた額が定額となる返済方法

ステップ返済 初めの一定期間は低額の返済とし、その後に返済額を大きくする返済方法

 

なお、融資の返済が3ヶ月以上滞ったときには、一括返済を求められたり(期限の利益の喪失)、保証人への請求、担保不動産の強制売却がされることもあります。

また、そこまでではないとしても、信用情報機関に事故情報として登録されるため、返済の管理はしっかりと行うようにしましょう。

 

融資審査のポイントと注意点

融資の審査におけるポイントや注意点としては、次のようなものがあります。

自分の状況にあった融資制度を選択する

公庫では数多くの融資制度が用意されていますが、それぞれで利用できる条件が異なっています。

また、同一の人が複数の融資を利用できることもあります。

そのため、申込みにあたっては、一つの融資制度に決め打ちするのではなく、さまざまな制度を確認しておくことが最適な制度を選ぶポイントとなります。

しかし、どのような制度を選べばよいか判断に迷う場合には、支店担当者や商工会議所、融資の専門家などに相談した上で決定することをおすすめします。

申し込みの理由と返済財源を明確にしておく

融資の審査では多くの項目について確認が行われますが、その中でも特に重要なのが「何のために借りるのか?」(資金使途)と「どうやって返すのか?」(返済財源)の2点です。

資金使途についてはおおまかには運転資金と設備資金のいずれかとなりますが、とくに運転資金については「運転資金として3ヶ月の資金が欲しい」などのように内容があいまいとなりやすいため、「〇〇の仕入れ代と人件費、家賃の3ヶ月分の資金が欲しい」というように、使う目的を明確にする必要があります。

 

返済財源については、運転資金ならば「〇月以降の入金分により返済」、設備資金ならば「設備導入により見込まれる増産分の売上げから返済」などのように、それぞれの使途にあわせた合理的な理由を考えておく必要があります。

 

また、創業融資の場合には、決算書などで過去の実績を示すことができないため、返済財源は見込みの売上や利益にもとづくものとなります。

そのため、これらを説明する創業計画書の内容の出来・不出来が審査結果に大きくかかわってきます。

創業計画書においては、「売上げや利益の根拠(とくに集客)に説得力があるか?」、「自己資金がどのくらいあるか?」、「事業に必要な許認可等の取得ができているか?」などが重要なポイントとなります。

家賃や公共料金、税金等の未納や延滞がないこと

融資の審査においては、過去の家賃等の支払い状況が厳しく審査され、これらについて延滞や未納がある場合には融資は困難となります。

 

支払いがチェックされるものしては、以下のようなものがあります。

家賃・公共料金・住民税・住宅ローン。住宅の固定資産税・各種クレジットの返済・スマートフォン本体の料金の分割払いなど

なお、面談では持参させた通帳の直近6ヶ月~1年の間分を確認し、この間に遅れがなかったどうかを確認しますので、ごまかすことはできません。

 

また、「入金はしていたが、他の引き落しがあったため残高が不足してしまった」などの言い訳も理由とはならないので、日ごろから残高の管理をしておく必要があります。

できるだけ事業計画書を作成する

通常の融資の申込みは借入申込書を提出するだけで行うことができますが、少しでも融資の確率を高めたいのであればきちんと事業計画書作って申し込む必要があります。

 

借入申込書には、企業や本人、家族の属性情報の記入欄の他、融資の内容に関しては、「運転資金として〇ヶ月分として〇万円」や「〇〇の設備資金として〇〇万円」程度の内容しか書くことができないため、資金が必要となった背景や業界の動き、その資金を具体的にどのように役立てるのかなどを伝えることができません。

しかし、事業計画書を作ってこれらのことを盛り込めば、より企業の状況や借入れに対する意気込みなどが明確となるため、融資審査で有利となります。

 

融資申請と許認可スケジュールの関係

融資の申し込みをする際にはそれだけでなく、「許認可の申請のタイミング」にも注意する必要があります。

 

建設業や宅建業、飲食店などのように、特定の許認可を取って営業しなければならない事業では、許認可がオープンまでに取得できていないと営業をすることができないだけでなく、融資審査の手続きも止まってしまいます。

そのため、融資可決の見込みとなっている場合であっても、許認可が取得できるまでは融資を受けることができません。(ただし、飲食店については、例外的に取得前でも融資実行される)

したがって、これらの事業を行なう場合には融資の手続きだけに注意するのではなく、許認可のスケジュールについてもあわせて計画しておく必要があります。

 

例えば、令和5年10月から建設業を開始したい場合には、建設業の許可の申請~取得までに約3ヶ月の時間がかかります。

また、融資申込~実行まで1ヶ月(創業融資の場合には1~1.5ヶ月)の時間がかかるため、これを計算に入れた上で許認可申請や融資申し込みのスケジュールを考える必要があります。

6月上旬    建設業の許可申請

8月上旬    融資申込

9月上旬    建設業の許可取得見込み

9月上旬    融資実行

9月中~下旬  営業準備(物件取得、人員、資材手配、各種届出等)

10月     事業開始

 

まとめ

中小企業であっても日本政策金融公庫などの公的金融機関を利用すれば、融資を受けることは十分に可能です。

また、日本政策金融公庫の融資は、金利やその他の条件が優遇されており、中小企業の実情に配慮したものとなっているため、中小企業や創業者でも容易に資金の調達をすることができます。

しかし、日本政策金融公庫には数多くの融資制度があるので、しっかりとその種類や特徴を理解していないと最適な制度を利用できなくなってしまいます。

そのため、日本政策金融公庫の融資を利用する場合には、自分で調べるだけでなく、公庫の担当者や商工会議所、資金調達の専門家等に相談することをおすすめします。

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